全社員へ2023年08月18日

リーダーの役割とは何か? コロナ後だからこそ飲食店オーナーが考えるべきこと

セゾン投信の中野晴啓CEOが退任したというニュースは、セゾン投信を育ててきた創業者が事実上の更迭をされたという驚きから、経済界を中心に話題となった。直販にこだわり、独立系投信としての地道なビジネスを展開してきた中野氏に対し、拡大路線を取りたい親会社は「あなたがいたままではセゾン投信は大きくなれない」と言ったという。飲食店のビジネスでも、出店して拡大しようとするとき、改革をしようというとき、現場のリーダーを泣く泣く切らざるを得ない状況は起こり得る。飲食店を応援しようというテンポスの社長として、この問題をどう考えるか、どう対応するべきなのか、森下社長に聞いた。

リーダーに求めるれることは、状況によって変わる

どんな事業でも、その会社の置かれた状況などによって、リーダーに求められる役割は変わる。たとえば利益体質が確立されておらず、できるだけ早く安定した黒字経営を確立させたいという段階なら、リーダーは、もっと効率的にやる方法がないか、利益を垂れ流してしまっているところはないかを考えて、オペレーションを見直して事業の立て直しをスピーディに行っていくことが求められる。

一方で、なんとか黒字化は実現できているが、低収益で一度風が吹いたら危ない、このままでは事業の将来性がないという状況の場合は、リーダーは利益体質の強化を考えながら、既存事業以外の新しいビジネス開発も求められる。この後者のケースはよくあるんだけど、うまくやるのはとても難しい。

なぜかというと、いま困ってないから。いますぐ潰れるというわけではないから、なかなか本気になれない。そもそも新ビジネスの開発は、死ぬ気でやっても成功するのは1勝4敗くらいの確率。5回戦ってせいぜい1勝できるかどうか。 でも、とりあえず既存事業が食っていける状態では、誰も死ぬ気でやらないよ。社長に進捗を聞かれると「やってます」と答えはするが、実質何も進んでいない。おそらく頭の中では改革は考えてるだろうし、思いついたことを試したりもしているかもしれない。でもその程度では、1勝49敗ぐらいの成功率にしかならないんだよ。

新事業の開発というのは、そのくらい難しい。片手間でやれるほど、思いつきでうまく行くほど、簡単じゃない。死ぬ気になって、ようやく1勝5敗なんだ。しかもその1勝は、将来に向かって手を打つネタになるってだけで、そこから大きく育てていくためには、さらに試行錯誤を続けていかなければいけないんだよな。

既存事業が生きている間は、将来に目を向けること自体が難しい

たとえば、昔はたくさんあったお米屋さん。今はほとんど見ないでしょ。もう40~50年ぐらい前から、米食が減っていることが指摘されていて、10年後の市場はどうなっちゃうのかなどと騒いでいたのに、何もしなかった店が多かったからね。減っていると言っても、米食がなくなることはないから、じり貧ながらも商売はできる。だから、多くの米屋には危機感がなかったんだろう。何も対策せずに流れに任せているうちに、気づいた時にはもう何もできずに閉店に追い込まれてしまった。残念ながら米屋はほとんどなくなってしまった。海苔も米食と一緒に市場は縮んでいる。なかには生き残っている海苔屋はあるが、間もなく米屋と同じで潰れていくよ。なぜなら、既存のビジネスで食えているから。食えているから死ぬ気で新しいことをやらない。だから潰れていく。このままでは先がないなあと予想できるビジネスは、新しい取り組みを早めに始めないと生き残れない。

これは大企業だって同じ。たとえば、いまソニーは、家電の売上は収益の2割ぐらいしかない。ゲームとか、ファイナンスとか、エンタテイメントみたいので稼いでる。世間は、かつての家電のソニーはどこに行っちゃったわけ? などと言ったりするが、ソニーは「そんなこと知らねえよ」って思ってるはずだ。そんなことより、経常利益、時価総額で、パナソニックを超えてるってことの方が大事だから。

大小問わず、あらゆる会社で同じことは起きる。飲食店でも。市場の変化を感じ取ったら、できるだけ早く対策を講じなければ生き残れない。だいぶ前から、そうなってるんだよ。 でも、既存事業がまだ食っていけるときに、将来に向かって手を尽くすのは、これがもう至難の業なんだよ。

資金を未来のために使うか、自分のために使うか

では、どうすればいいかと言うと、事業の責任者に、将来の事業開発をやらしちゃいかんということだと俺は思う。別の人に、期限と使える予算を決めて、任せるのがいい。既存事業のリーダーが有能で、彼にやらせたいと思うなら、既存事業との関わりを一切絶って新規事業のみに専念させて、責任を持たせる。ここで重要なのは、新規事業の売上げがどうだとか、採算がどうだとかピーピー言わないこと。新規事業なんて、そんなすぐに売上げが上がってくるわけがないんだから。

3年なら3年やって、人件費や投資に対して一銭の見返りがなくてもやれるような金を、既存事業が生きている間に貯めておくのが事業の基本だよ。それを貯めてなくて、景気が悪くなってから慌てても、これはもう、つぶれる方向にまっしぐらだ。もう坊さんでも呼んだ方がいい。街の中小企業で1億や2億を貯めている会社はいくらでもあるよ。でもその金でビルかなんか買っちゃったりする。そっち行ったら、それは事業の開発じゃない。家族は助かるかもしれないけど、5年10年で会社が消えたら、社員は路頭に迷っちゃう。

10人20人の会社で、ビルに投資するようなところは気をつけろ。社長がいくらみんなの幸せのためだって口で言ったって、ビルを買っている社長は従業員なんてどうなったって知ったことじゃないと、言ってるのと同じだから。

絶対に既存事業の責任者が、新規事業を兼務するな!

コロナで、新しい事業を始めようと考えた飲食店も多いと思う。飲食やアルコールの制限なんてことがもう絶対に起こらないとは言えないからね。でも、既存事業やってる社長が、新規事業開発をやるというのは絶対にやめた方がいい。もしやるなら、既存事業を有能なスタッフなどに任せて、自分は2年なら2年で目途をつけると決めて新しい事業に専念する。部下にやらせるんだったら、既存事業とは全く関係ない奴にやらせる。

同じ業態で二軒目をやろうというときは、そんなこと考える必要はない。同じリーダーのもとでどんどんやっていけばいい。そうじゃなくて、居酒屋10店舗持ってるけど、コロナで全然だめだから、居酒屋のテコ入れをしつつ、ケーキ屋を始めようかとなったら、右腕だったスタッフをケーキ屋に出向させて、金はこっちで持つからケーキ屋をやってみろと、こうやってやるか、居酒屋の方をスタッフにまかせて、自分がケーキ屋入っちゃうかのどちらか。とにかく、新規事業のリーダーは、既存事業から離れる方がいい、両方やるとうまくいかない。

たとえばケーキ屋3店舗やったとして、それがうまくいかなくなってきたというとき、立て直しに居酒屋の本部長に兼務させるというのもダメ。やるなら本部長はケーキ屋に専念させて、既存事業のことは忘れろと言う。それくらいしないとうまくいかない。

いまテンポスバスターズでは、新店オープンするお客様に不動産の紹介から初めて、内装から何から、店舗オープン時に必要なものをいろいろ全部受注しようとしているんだけど、なかなかうまくいかない。テンポスの店員にしてみると、そんな大変なことやらなくたって、今のままでも250万円の粗利は出せるし、ボーナスもそれなりにもらえる。そんな状況では、いくらトレーニングやったって、そりゃうまくいかないわな。こうなると専任を作ってやらないとダメなんだよなぁ。でもこれは、これからのテンポスに必要なチャレンジだ。会社、従業員の幸せな未来はその先にある。

現状に満足するな! 突き進め!